6. 化学物質対策②:さまざまな化学物質対策

化学物質リスクアセスメントの重要性

「労働安全衛生法」(安衛法)は、労働災害を防止するために広範な規制を定めており、その一つが工場やオフィスなどの事業場における化学物質対策です。安衛法と関係法令による化学物質規制の中で重要なのが、化学物質に関する「リスクアセスメント」の義務です。

リスクアセスメントとは、化学物質及びその製剤が持つ危険性や有害性を特定し、それによる労働者への危険又は健康障害の程度を事前に把握することでリスクを低減する仕組みです。未規制だった化学物質が原因で胆管がんの労災事案が発生したことを受けて制度化されたもので、規則で定められていない化学物質のうち一定のリスクがあるものについて、事業者に危険性又は有害性等の調査を義務づけました。本法に基づく安全データシート(SDS)の交付義務がある化学物質が対象です。

 リスクアセスメントは、対象物に関して、原材料としての新規採用・変更、製造・取扱業務の作業方法や手順の採用・変更、危険性や有害物の変化―が起きる3つの機会をとらえて行います。事業者はまたリスクアセスメントの結果を労働者へ周知しなくてはなりません。

 労働安全衛生法には「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」「特定化学物質障害予防規則(特化則)」などの特別規則があり、高い有害性・危険性の認められた化学物質をこれらの規則で個別に規制しています。しかし規制された化学物質の使用を回避した結果、未規制だが有害性のある物質を使用し、労働災害が発生する事例が後を絶ちません。

そのため、安衛法は個別規制から、リスクアセスメントによる自律的な管理を基軸とする規制へと大きく方向転換を行っています。具体的には、SDS・リスクアセスメント対象物質を、危険性・有害性が認められた全ての物質へと拡大し、各事業者がリスクアセスメントを行った上で労働者を守る方法を自ら選択する、という形となります。約700物質だったリスクアセスメント対象物質は段階的に約3000物質まで増加し、有機則などの個別具体的な規則は廃止される予定です。

安衛法はまた、石綿(アスベスト)の製造・輸入・譲渡・提供・使用を禁止しているほか、石綿を含む建築物の解体や改修時の事前調査や届出、管理などについても厳しく規制しています。

毒劇法で毒劇物の違法な流通や漏えいを防止、農取法は農薬の登録を義務づけ

社会で流通する化学物質のうち、急性毒性による健康被害が発生するおそれの高いものを「毒物」又は「劇物」(毒劇物)に指定して取り締まる法律が「毒物及び劇物取締法」(毒劇法)です。毒劇物の違法な流通や漏えい等を防ぐため、それらを取り扱う事業者に対して、毒物劇物営業者の登録、容器等への表示、販売・譲渡時の手続及び運搬・廃棄時の基準の遵守、盗難・紛失・遺漏等防止対策の徹底―などを義務づけています。

毒物として水銀やニコチン、ヒ素など、劇物としてアンモニアや塩化水素、クロロホルムなどが法別表により定められています。また、「毒物及び劇物指定令」により毒物及び劇物の追加や削除が頻繁に行われるので注意が必要です。

 一方、農薬による環境や人の健康への影響を防止するための法律が「農薬取締法」(農取法)です。農薬の登録制度を設け、販売や使用を規制することで安全で適正な使用を確保することを目的としています。農薬は農林水産大臣の登録を受けずに製造・輸入・販売・使用することができず、また、環境大臣が定める登録保留基準をクリアしなくてはなりません。

 油などの危険物については、「消防法」が施設の構造等の基準を定め、貯蔵や取扱いを規制しています。物質ごとに定められた指定数量を超える量の危険物を貯蔵・取り扱いする場合には市町村長の許可、指定数量の1/5以上の危険物(少量危険物)を貯蔵・取り扱いする場合には市町村への届け出が必要です。例えば灯油は1,000L以上で危険物、200L以上で少量危険物となります。また、危険物を取り扱う場合には危険物取扱者を置かなくてはなりません。消防法の規定に基づき、市町村などが火災予防条例により火を使用する設備の位置、構造及び管理の基準等を定めています。

ダイオキシン類、PCB、水銀等の有害化学物質は個別法で規制

人の生命や健康と自然環境に重大な影響を与える有害な化学物質については、個別法による厳しい規制が行われています。

「ダイオキシン類対策特別措置法」は、ダイオキシン類について人が生涯にわたり継続的に摂取しても健康に影響を及ぼすおそれがない「耐容一日摂取量」と、大気・水質・土壌それぞれの環境基準を定めています。特定施設又は特定施設を設置する工場・事業場は、排出基準を超えるダイオキシン類を排出してはなりません。

「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」は、国が中心となってポリ塩化ビフェニル廃棄物(PCB)の適正な処理を進めるための体制などに関する規定を整備しています。PCBを使用した変圧器、コンデンサー等の高濃度PCB廃棄物の処理期限は令和5(2023)年3月で終了しました。2027年3月を期限として、微量のPCBを含む機器やケーブル、PCBで汚染された布や金属くずといった、低濃度PCB廃棄物の処理が進められています。PCB廃棄物が社内で発見された場合は、行政に相談しましょう。

 「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」は、「水俣条約」の取り決めを国内で実施するため平成27年に制定されました。水銀鉱の掘採禁止、新用途水銀使用製品の製造等制限、水銀使用製品の適正な回収、特定の製造工程における水銀等の使用禁止、水銀等を使用する方法による金の採取禁止、水銀等の環境上適正な貯蔵のための措置及び水銀含有再生資源の環境上適正な管理のための措置などを定めています。

📚 参考①:安全・衛生(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/
📚 参考②:毒劇法/関連法律(環境省)https://www.chemicoco.env.go.jp/list.html?law_id=19
📚 参考③:農薬取締法について(農林水産省)http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_kaisei/
📚 参考④:保健・化学物質対策(環境省)https://www.env.go.jp/chemi